外国人と生活保護

スタッフからのお知らせ・日記

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外国人への生活保護適用は、「すべき」「すべきでない」のいずれの立場の方々からも、とかく感情的な反応を引き出しやすいテーマです。


 まずは、法と制度がどうなっているのかを整理しましょう。


 そのためには、1929年まで歴史を遡る必要があります。


 なお、この問題を時間をかけずに「ざっくり」と俯瞰したい方は、まず『ダイヤモンド・オンライン』に発表した拙記事「在日外国人がどれだけ困窮しても生活保護を受けづらい背景」からお読みいただき、その後、本記事の歴史・法規等整理にお目通しいただけば早いと思います。そちらの記事は、現状と問題点をデータ・事例から説明しており、本記事を補完する内容です。


生活保護制度はいつ出来た? 「国籍条項」問題はいつから?


 生活保護法(新法)は、1950年に施行されました。2013年に改正されましたが、構造・構成は変わっていません。


 その構造・構成の原型は、1929年(昭和4年)の「救護法」で作り上げられています。日本の戦争突入(盧溝橋事件として1937年)の8年前にあたります。もちろん、GHQは全く関係していません。この時期、存在しなかったのですから。


 以下、救護法・生活保護法(旧法・新法・改正法)と国籍条項の推移を整理します。


救護法(1929年公布、1932年施行)


救護法の条文は、なかなか探し出しにくいのですが、こちらにあります。



  • メニュー別扶助(生活・医療・助産・生業)+埋葬費

  • 「働けない」人(幼児・障害者・傷病者・高齢者など)が対象

  • 欠格条項(注1)あり

  • 国籍条項なし

  • 運用は方面委員に委任



日本に併合されていた国・地域の人々の国籍は「日本」でした。日本人と全く同じではなく「朝鮮籍日本人」などですが、国籍としては「日本」です。そもそも国籍条項がないので、困窮しており欠格条項にも該当しない場合は、制度による救済の対象でした(実際に適用されたかどうかはさておき)。



(注1)



「欠格条項」とは、保護を受ける資格を問う条項のこと。たとえば「働けるのに働かない人」は資格なし(欠格)とされました。



生活保護法旧法(1946年施行)




  • メニュー別扶助(生活・医療・助産・生業・葬祭)

  • 「働けない」人(幼児・障害者・傷病者・高齢者など)が対象

  • 欠格条項あり

  • 国籍条項なし

  • 運用は民生委員(旧・方面委員)に委任



日本に併合されていた国・地域の人々の国籍は、救護法時代と同じく「日本」でした。ただし1948年に大韓民国が建国された際、国籍を韓国にした人々もいます。いずれにしても生活保護法に国籍条項がなかったので、困窮しており欠格条項にも該当しない場合は、生活保護の対象となりました。



生活保護法新法(1950年施行)




  • メニュー別扶助(生活・教育・住宅・医療・出産・生業・葬祭・介護(2000年〜、介護保険制度発足に伴う))

  • 欠格条項なし(「生活に困窮するすべての国民」が対象)

  • 国籍条項あり(「すべての国民」が対象)(注2)

  • 福祉事務所体制発足、運用は福祉事務所が行うことに



制度発足時、日本統治下の国・地域にルーツを持つ在日外国人の国籍は「日本」が多数でした。



しかし1952年、サンフランシスコ講和条約締結の直前、通達によって日本国籍を失い、外国人となり日本人としての権利を失った状態で、さまざまな事情から日本に留まらざるを得なかった人々が多数いました。



生活保護と国籍が問題となりはじめたのは、その時期からです。



(注2)



ただし、1950年に厚生省が刊行した別文書(Amazon書籍ページ)に、「国籍を理由として保護しないのはダメ」「外国人には申請権はあるけれど審査請求権はない」と明記されています。生活保護に関する外国人暴動が起こる前です。これらの記載は、1954年の局長通知で再度、明確にされました。



改正生活保護法(2014年施行)




  • メニュー別扶助(生活・教育・住宅・医療・出産・生業・葬祭・介護)

  • 国籍条項あり

  • 欠格条項なし、ただし「被保護者の責務」が加わった

  • 国籍条項あり

  • 福祉事務所が運用



 日本国憲法と生活保護法だけに照らせば、確かに、外国人は生活保護の対象とならないことになります。



法の運用を規定するものは、憲法とその法だけではありません



実際のところを決めるのは、施行規則・施行令・通知・通達などなど



 「こんなとき、どう判断すればいい?」という悩ましいもろもろへの指針を、法律そのものに盛り込むのは不可能です。



 運用の実際に関する規定は、施行規則・施行令・通知・通達などなどによって行います。もちろん、法そのものに違反・矛盾しないように定める必要があるのは、大前提です。



 生活保護制度にも、このような施行規則等があり、現在有効なもの+厚労省による解説は1500ページ以上にのぼります。我が家にも一式揃っています。



 なお、都道府県単位で、その都道府県の生活保護制度運用マニュアルを策定している場合もあります。もちろん生活保護法そのもの、あるいは施行規則等に違反しないことは大前提です。東京都にも生活保護制度運用マニュアルがあり、「付き合いがなく扶養を期待できない親族には扶養照会をしなくてよい」などの規定が定められています。



国際法に従う必要がある、日本の国内法



 改正するしないが話題となっている日本国憲法は、日本の最高法規ですが、その日本国憲法以下日本の国内法全部が従わなくてはならない法律があります。日本が対象となっている国際法の数々です。「国際法」には、国連の条約・日本が各国と締結している条約や協定が含まれます。



 国連の条約のうち日本が締結しているものは、日本の国内法が条約と矛盾なく整備されたことを前提として締結しているわけですから、条約違反の国内法や規定が存在してはならないことになります。



 生活保護制度と強く関係するのは、国際人権規約(外務省ページ)のうち特に社会権規約(外務省訳)、および難民条約(外務省サイト内PDF、条約本文は34ページから)です。



 国際人権規約は1966年に採択され、日本は1979年に一部を除外して締結しました。条約を締結すると従わなくてはならないわけですが、「わが国には無理」「わが国はやりません」という内容を「今は除外します」と留保して締結することができます。除外項目に、外国人の人権に関する内容は含まれていません。



 国連難民条約は1951年に採択され、日本は1981年に留保なく締結しています。



国際人権規約・難民条約から見た生活保護法(追加あり(2017年10月1日23時))



 国際人権規約の社会権規約には、日本国憲法でいう「生存権」にかかわる記述が多数あります。ここでは、全体の精神を規定している前文を紹介します(太字は筆者による)。



この規約の締約国は、



 国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものであることを考慮し、



 これらの権利が人間の固有の尊厳に由来することを認め、



 世界人権宣言によれば、自由な人間は恐怖及び欠乏からの自由を享受することであるとの理想は、すべての者がその市民的及び政治的権利とともに経済的、社会的及び文化的権利を享有することのできる条件が作り出される場合に初めて達成されることになることを認め、



 人権及び自由の普遍的な尊重及び遵守を助長すべき義務を国際連合憲章に基づき諸国が負っていることを考慮し、



 個人が、他人に対し及びその属する社会に対して義務を負うこと並びにこの規約において認められる権利の増進及び擁護のために努力する責任を有することを認識して、



 次のとおり協定する。



 難民条約には、難民に対して他の外国人より不利益な待遇をしてはならないと明記されています。また労働法制・社会保障については、自国内と同様でなくてはならないと述べられています。



 「難民だけは、しかたない」と解釈するわけにはいきません。難民条約の後で国際人権規約が作られており、国際人権規約は難民を含む「すべての人」を対象としています。



 とりあえず難民条約だけでも、外国人一般と難民の間に差別があってはならず、難民は日本国民と同様の労働者としての権利・社会保障を受ける権利があります。すなわち、労働者としての権利・社会保障を受ける権利について、外国人一般・難民・日本国民の間には差がなくなるはずです(ただし、難民であることに考慮した「上乗せ」は禁じられていません)。



第七条(相互主義の適用の免除)



1 締約国は、難民に対し、この条約が一層有利な規定を設けている場合を除くほか、一般に外国人に対して与える待遇と同一の待遇を与える。



第二十四条(労働法制及び社会保障)



1 締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、次の事項に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。



(a)報酬(家族手当がその一部を成すときは、これを含む。)、労働時間、時間外労働、有給休暇、家内労働についての制限、雇用についての最低年齢、見習及び訓練、女子及び年少者の労働並びに団体交渉の利益の享受に係る事項であって、



法令の規律を受けるもの又は行政機関の管理の下にあるもの



(b)社会保障(業務災害、職業病、母性、疾病、廃疾、老齢、死亡、失業、家族的責任その他国内法令により社会保障制度の対象とされている給付事由に関する法規)。ただし、次の措置をとることを妨げるものではない。(略・難民の権利を保護するための措置)



 いずれにしても日本は、「外国人と日本人を平等にすることを、やります」と国際社会に約束しました。条約締結とは、そういうことです。



外国人にも実際に開かれた日本の社会保障



 条約を締結しておいて「実行はしません」は許されないわけです。当然、日本も実行はしています。内容や程度が「実行したことになる」かどうかは、議論の余地があったり疑問がもたれたりしますけれども。



 世界人権規約が締結されたため、1986年までに、国民年金法・国民健康保険法・児童扶養手当法・児童手当法などが改正され、国籍条項が撤廃されました。この結果、外国人も年金保険・国民健康保険に加入できるようになりました。また、外国人も育児に関する現金給付の対象となりました。なお国民健康保険は、2012年より、3ヶ月以上日本に滞在する外国人に対しては加入が義務化されています。



 一方で、生活保護法には国籍条項が残っています。いったい、どうなっているのでしょうか?



「実際としては外国人も対象だから」と国籍条項が残された生活保護法



 1980年前後、国際人権規約・難民条約の締結が国会等で議論されていた時期、もちろん、生活保護法の国籍条項も議論の対象になりました。当時の国会議事録には、下記のような解釈が示されています。





(筆者注:入国管理局は)生活保護を受けたことを理由として国外追放措置をとることはいたさない




出典:第094回国会 外務委員会 第18号 議事録



「その国に負荷をかける外国人は追い出していい」という考え方を、入国管理局は認めていません。



生活保護を運用している厚生省(当時)の見解は?





外国人は、今回の条約が施行される以前からすでに現在におきまして日本国民と同様の措置の対象になっている




出典:第094回国会 外務委員会 第18号 議事録





生活保護につきましては従来外国人に対しまして日本国民と同様の措置をとっておりますので、それをもって条約の義務は満たし得るということでございまして、その点につきまして従来と同様




出典:第094回国会 外務委員会 第18号 議事録



 外国人には生活保護の申請権はあるけれども審査請求(=不服申立て)権はなく、あくまで「準用」「行政措置」である部分の不利がある点に関し、厚生省は以下の回答をしています。





現在の行政措置で行っております一般外国人に対する処遇が、条約二十三条との関係におきまして義務を受諾し得る、こういうような考え方でございます。(略)法律の改正等を行いません。ただしかし、条約の趣旨の徹底を図るべく必要に応じまして通達等を発するという方針




出典:第094回国会 外務委員会 第18号 議事録



つまり「現在の外国人の生活保護の扱いは、実際には日本人と同じなんだから条約に違反してません」「さらに生活保護で外国人と日本人が同じになるように、通達等で徹底して、条約違反にならないようにします」ということです。



そして現在は?



 1990年以後、生活保護の対象となる外国人は、永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者、および特別永住者に限定されています。入国管理局の「在留資格一覧」にズラリと並ぶ在留資格の数々では、生活保護の対象とならないのです。当初は厚生省(当時)が口頭で述べていただけですが、2009年以後は明文化されています。



 1980年代以後に日本に来た「ニューカマー」、その子孫で日本国籍でない人々は、「永住者」「定住者」と認められていない限り、まず生活保護の対象とならないわけです。もちろん、オーバーステイなど有効な在留資格を持たない場合は、当然のこととして対象になりません。



 このことは、さまざまな問題を引き起こします。生活保護の対象とならない外国人が急病等で多額の医療費を必要とした場合、「医療だけの生活保護(医療扶助単給)」で救済することができません。現在は外国人にも国民健康保険の加入が義務付けられていますが、「日本語の壁から無保険状態になっている」という場合もありますし、滞在期間が3ヶ月以内なら国民健康保険には加入できません。交通事故で負傷したオーバーステイの外国人に対しても同様です。日本で働いている外国人が失職して無収入になった場合も、就労ビザで日本にいる以上(=永住者等ではない以上)、原則として、生活保護の対象にはなりません。



「条約に違反してません」と言い張るのは難しそう



 前述のとおり、日本は「外国人に対しても、実質として日本人と同じように生活保護法を適用します」という約束のもと、国際人権規約と難民条約を締結しました。しかし実際には、その後、生活保護法を外国人に利用する範囲を狭める方向の規定類は、増えていく一方です。そして、堂々と明文化されています(厚労省の公式事例集(Amazon書籍ページ)に掲載されています)。



 自分を縛る条約を積極的に締結したいと考えないのは、概ね、どの国の政府も同じです。それでも「先進国の見栄」とホンネとタテマエのせめぎ合う中で条約を締結するわけですが、やはり「積極的に守りたい」とは思わないものです。だから国連は、条約を締結した国に対して定期審査を行い、「なんで実行しないの?」「それで実行したことになってるの?」「締結国なんだから実行しなさい」と尻をたたくのです。これは、どの国に対しても同じです。



 日本政府の立場に立ったつもりで考えると、外国人に対する生活保護制度運用は、今の日本の最大の「ツッコまれどころ」の一つです。弱点はなんとかしておいたほうがいいと思うのですが。



もちろん、条約を変えることはできますが



 国連の条約は、宗教の教義ではありません。人が作ったものですし、人が変えることもできます。世界の人々の平和と安全に逆行する方向に変えるのは、ほとんど不可能なほど困難なのですが、ホンネのところで「外国人に公的扶助(日本では生活保護)だなんて」「難民を保護するなんてイヤ」と思っている国々と協力すれば、もしかしたら出来るかもしれません。



 日本には、国連から脱退する自由もあります。



 しかし、日本が国連加盟国にとどまり、国際的な影響力を維持したいと思うのならば、ツッコまれたら文句を言えないところを放置したり明文化したりするのは、やめておいたほうが良いのではないかと思います。



 



考えて議論するために、まずは事実の整理から



 私自身は正直なところ、外国人と生活保護についてどう考えればいいのか、調べれば調べるほど訳がわからなくなってきています。「国」「国籍」「国民」とは何なのでしょうか? 今、最も訳が分からなくなっているのは、「国って、何?」という点です。日本がルーツで(少数民族ではなく)、日本語が母語で日本に住んでいる日本国籍の人々は、ナショナリティやエスニシティについて悩む必要がほとんどありません。しかし日本にいる外国人の方々は、当然ながら、そうではないわけです。



 もちろん、法制度上の「日本が縛られることを受け入れた国際法に、日本は従ってないよね?」という問題点は、それはそれとして気になります。



 また、経済的に豊かではない外国人が日本で幸せに暮らすためには、生活保護が日本人同様に利用できるだけでは不足でしょう。多様性や共生は大切ですが、自分が「しんどいなあ」という時、人間は簡単に寛容さを失うという現実もあります。難民を積極的に受け入れてきた国々で、負担感や差別意識が表面化し、排外主義が尖鋭化している現状もあります。



 「受け入れるからいけない」「外国人の人権を制約すべき」とは私は思いませんが、理想像はあるとしてどのようなものなのでしょうか? 目標はどこに置けばいいのでしょうか? 近未来の落とし所は、どこに設定すればいいのでしょうか?



 事実や歴史に立脚するために、まずは知りたい方が増え、考えを深める方が増え、そういう方々が大いに議論する状況となることを、心から望みます。



yahoo! より引用



 



 


この記事を書いた人

松田慎也

はじめまして。
福祉賃貸.COMの松田です。

福祉にご理解いただけているオーナーさんと強いパイプがありますので
生活保護の方のお部屋探しはには大変自信があります。
入居者様に安心して提供できるよう努めてまいりますので
どうぞ宜しくお願いします。